ミル キク アソブ 星筐 プログラムノート

曲解説 9月18日のプログラム

星筐 〜ひびきのかたち・かたちのひびき
鑑賞型立体音響体験コンサート

とうのたまみ編曲 越天楽幻想

越天楽は、皆様もよくご存知な「春の弥生の曙に」や、黒田節などの民謡の旋律にも取り入れられた雅楽古典の最も有名な曲です。雅楽合奏において笙は主に和音を通奏しますが、ここでは、秋の風情を伝える平調調子(ひょうじょうのちょうし)から越天楽の旋律を交えて、演奏を展開いたします。

【演奏】
笙:とうのたまみ

とうのたまみ(東野珠実) 星筐IV-8

音楽の楽しみは、響きの宇宙に星座を見いだす歓びではないか、と私は考えます。『星筐』(ほしがたみ)は、このコンセプトをもとに創作した雅楽合奏のための作品にはじまり、以後、連作として様々な形態の表現を模索しています。

さて、奈良で発掘されたキトラ古墳に記される星宿のように、古来、人々は無数の星々に意図的な縁を読み取り、天と人とのつながりに特別な思いを抱いています。一方、私はまだ文字も読めなかった子供の頃、送電線を五線譜に、その向こうの星を音符に見立てるアソビを楽しんでいました。

この作品は、そんな音楽のアソビを当代のメディアに載せ替えてみようという趣向で、演奏する日時の星図に五線譜を重ね、大小の星々が音符として浮かぶよう作譜をし、《星図譜》と名付けました。

演奏する時間や場所によって、星空は見えませんが、星は常に天上を運行しています。心の目でその輝きを見出していただければ幸いです。

【演奏】
打楽器:伊勢友一

ひがきともや(檜垣智也) Aural Sphere

2023年 初演

「Aural Sphere(聴覚の世界)」は、9分程度のアクースモニウムのための作品です。たくさんのスピーカーの集合体であるアクースモニウムは、スピーカー・オーケストラとも呼ばれ、空中に音による演出を行います。わたしの作品では、スピーカーから鳴る音のみによる、目では見ることができない純粋な聴覚世界をお楽しみいただけば幸いです。

今回は、先月8月11日に前橋で開催された視覚障害者を支援する活動を広める「まゆだまネットフェスタ2023」のワークショップの取材で得た音から竹の音をピックアップし、竹の聴覚的価値を見出そうとしました。前半は人間が竹を制御しようするユーモラスなシーンから始まり、竹が意志を持ちはじめお互いに響き合う世界へ移行していきます。後半は竹の楽器である笙の音を中心に使っていますが、その音はまるで人間の呼吸、生きていることそのものが光になったような美しいものです。

【録音演奏】
伊勢友一(竹、声)
とうのたまみ(笙、竹)
船本貴美子(ピアノ、竹)
ひがきともや(檜垣智也)(シンセサイザ)
「まゆだまネットフェスタ2023」のワークショップ参加者の皆さん(竹)

【ライブ演奏】
アクースモニウム:ひがきともや(檜垣智也)

音響:牛山泰良(hirvi)
協力:東海大学教養学部芸術学科檜垣智也研究室生有志(石原遼太郎、髙松慶実、菅沼 光、半田有希、片山颯大、藤井聡大、徳 和成)、hirvi

武満 徹 作曲 四季 Seasons

《四季 Seasons》は、1970年大阪万国博覧会鉄鋼館に設置されたフランソワ・バシェ制作の金属製楽器彫刻と電気音響システムのための音楽として作曲されました。

作品は2色刷り図形楽譜2枚と方位に従って配される4人の演奏者へのインストラクションから成り、図形で記されたルールに沿って即興的に呼応しつつ演奏されます。

1990年代、大学で現代音楽を、大学院でマルチメディア・アートを学んでいた私にとって、《四季》に描かれた図形譜は1970年の大人たちが描いた科学技術への憧れであり、その夢を現実として生きる私達への課題のように見えました。

そして作品が発表されてから半世紀を経て、AIということばが席巻した今、雅楽の世界に携わりつつ私なりに温めてきた現代音楽としての《四季》を、未来の音楽への一つの問いかけとしてここに表します。

(とうのたまみ)

AIパートプログラミング:矢坂健司

【演奏】
笙:とうのたまみ
打楽器:伊勢友一
アクースモニウム:ひがきともや(檜垣智也)

藤倉大 作曲 Obi for Sho and Electronics

笙の曲を作るというのは案外難しいかもしれない。

なぜなら、笙は何を弾いても綺麗に聴こえる。それに他のどの曲も同じように聴こえる。笙は中国のShengと違って、速いテンポではなかなか弾くことができない、と昔どこかで読んだことがあった。

それもあって、もし冒頭の部分をスタッカートにしたら、それは持続音としてよく演奏される笙の考えとは反対でもあるし、面白いんじゃないかなと思い、委嘱者である東野珠実さんと何回もスカイプで実験をして、冒頭ができた。

それに今回はエレクトロニクスが入るので、笙のみの音源を使って、音源を作ってみた。これこそグラニュラーシンセスがとっても笙のスタッカートと混じって綺麗なんじゃないかな、と思ってやってみた。

(藤倉大)

【演奏】
笙:とうのたまみ

とうのたまみ作曲 ミル キク アソブ

「ミル キク アソブ」は、みわみちよさんとのコラボレーションに際して、彼女が命名したこのプロジェクトのタイトルです。

見ること、聴くことは、人が世界を認識するための手段です。私たちは、芸術表現を通じて、その先にある心に触れること、心で遊ぶことをコンセプトとしました。

「ミル キク アソブ」は、すべて人の心のなかで生まれること、心の中から起こすことです。
さあ、この魔法の言葉を声や音で発して、アソビましょう!

【演奏】
声:会場の皆様/東海大学教養学部芸術学科檜垣智也研究室生有志

立木寛子 文 とうのたまみ作曲 朗読音楽 みえなくなったちょうこくか

三輪途道(みわみちよ)さんの彫刻教室に通われた作家の立木寛子さんが、「みえなくなったちょうこくか」という絵本を制作されました。

みるってなんだろう?
みえるってどんなこと?

絵本を朗読音楽に仕立てるにあたって、私は、このことばを頭の中でリフレインしていました。
そして絵本には、みわみちよさんが視力をなくす前から見えなくなったのちの彫刻が配されていますが、本日は、絵本の言葉に声や楽器による響きのかたちを添えて皆様にお届けします。空間全体に散りばめた言葉と音の肌触りをお楽しみください。

【演奏】
朗読/笙:とうのたまみ
打楽器:伊勢友一
アクースモニウム:ひがきともや(檜垣智也)
声:東海大学教養学部芸術学科檜垣智也研究室生有志/会場の皆様